研究者が実際に研究へ使える時間は、何割か
大学教員は職務時間のうち、どれだけ研究に使えているのか。文部科学省のFTE調査とNISTEPの調査の数字で、研究時間割合が46.5%から32.9%へ下がり続けた「研究時間の現実」を当事者目線で確かめる。
「大学の先生は一日中、研究をしている」。学部に入る前のわたしは、漠然とそう思っていた。研究室は、好きなことを好きなだけ考えていられる場所なのだと。ところが調査の数字を見ると、大学教員が職務時間のうち研究に使えているのは、いまや3割ほどでしかない。しかもその割合は、20年かけて静かに下がり続けている。
大学教員は研究の専門家である。だから職務の大半は研究のはずだ、と外からは見える。わたし自身、博士課程に入るまではそう信じていた。だが、文部科学省と科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が積み上げてきた調査は、別の現実を示している。ここでは「研究時間の割合」という一点に絞って、世間のイメージと実際の数字、そして当事者として見えている現実を、淡々と並べてみたい。
1. 研究時間は「半分以下」から「3割」へ
世間では、大学教員の本業は研究で、講義や雑務は「合間」にやるもの——そういう順序で受け取られていることが多い。研究者という肩書きが、そのまま「研究に専念している人」と読み替えられる。
一次情報を見る。文部科学省「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査(FTE調査)」は、5年に一度、教員が職務時間を何にどれだけ使っているかを調べている。同調査をまとめた文部科学省資料によると、大学等教員の研究活動時間割合は、2002年度(平成14年度)46.5%、2008年度(平成20年度)39.1%、2013年度(平成25年度)35.0%、2018年度(平成30年度)32.9% と推移している。16年間で13.6ポイントの低下だ。
正直なところ、わたしの感覚でも「研究そのもの」に向き合えている時間は、想像していたよりずっと少ない。研究は時間さえあれば進む。だが、その「時間さえあれば」の前提が、もう成立していない。半分を切ったあたりから、研究は「本業」というより「やりくりして捻出するもの」に変わったのだと思う。
2. 何が研究時間を押しのけたのか
研究時間が減ったなら、その分だけ教員は楽になっているのではないか——そう思われがちだ。
ところが、減ったのは研究だけで、総量が減ったわけではない。同じ文部科学省資料の年間総職務時間の内訳をみると、研究活動の時間は2002年度の1,300時間から2018年度の844時間へと大きく減った一方、教育活動は662時間から730時間へ、社会サービス活動(研究関連・教育関連・診療等の合計)は276時間から529時間へと増えている。とくに診療活動等を含む社会サービス(その他)は、2018年度に10.3%まで上がった。学内事務等の「その他の職務活動」は2018年度で18.0%を占める。
研究の時間は、消えたのではなく、別の仕事に置き換わった。講義準備、学生指導、委員会、評価対応、外部資金の申請と報告。どれも必要な仕事で、削れと言われると困る。だからこそ研究時間が真っ先に削られる。締め切りのない仕事は、締め切りのある仕事に負ける。
3. 「減り続けている」という事実の重さ
時間配分は人や年によって違うだけで、全体として大きく変わってはいない——そう受け取られることもある。
けれど数字は、一度きりの落ち込みではないことを示している。NISTEPのディスカッションペーパー No.80「減少する大学教員の研究時間」は、2002年と2008年の比較で、学部教員の研究時間割合が47.5%から36.1%へ、11.4ポイント低下したと報告している。この時点で既に「減少」が表題になっていた。その後のFTE調査でも下げ止まりは見られず、2013年度35.0%、2018年度32.9%と、低下傾向は続いている。
一度きりの落ち込みなら「たまたま忙しい年だった」で済む。だが10年以上にわたって右肩下がりが続いているとなると、これは個人の頑張りで取り返せる問題ではない。わたしが努力で多少の時間を捻出しても、構造そのものが研究時間を削る向きに動いている。当事者として一番こたえるのは、この「向き」のほうだ。
4. 分野によって景色が違う
「大学教員」とひとくくりにされ、どの分野でも事情は同じだと思われやすい。
実際には分野差がある。内閣府の科学技術・イノベーション関連資料(FTE調査に基づく分野別の職務活動時間割合)によると、研究活動時間割合は、理学では2017年度(平成29年に対応する調査期間)に49.3%、工学で38.2%、農学で39.9%、人文・社会科学で32.7%。人文・社会科学では2002年の46.4%から大きく下がっている。全体の研究時間割合の低下には、診療活動等を抱える保健分野の動きが大きく影響していると指摘されている。
「3割」という平均値は、誰か一人の実感とぴったり重なるわけではない。理系の実験系で5割を保てている人もいれば、教育や事務に追われて2割を切る人もいる。平均の数字を見て「自分はまだましだ」とも「自分はもっとひどい」とも言える。それでも、どの分野でも研究の割合が下がってきたという方向は共通している。
数字でみる研究時間割合
| 指標 | 値 | 年度 | 出典 |
|---|---|---|---|
| 大学等教員の研究活動時間割合 | 46.5% | 2002年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 大学等教員の研究活動時間割合 | 39.1% | 2008年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 大学等教員の研究活動時間割合 | 35.0% | 2013年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 大学等教員の研究活動時間割合 | 32.9% | 2018年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 学部教員の研究時間割合(参考) | 47.5% → 36.1% | 2002→2008年度 | NISTEP DISCUSSION PAPER No.80 |
| その他の職務活動(学内事務等)割合 | 18.0% | 2018年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 社会サービス活動(その他:診療等)割合 | 10.3% | 2018年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 年間研究活動時間 | 1,300時間 → 844時間 | 2002→2018年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| FTE係数(教員のフルタイム換算係数) | 0.329 | 2018年度 | 文部科学省 FTE調査(2019年資料) |
| 研究活動時間割合(人文・社会科学) | 32.7% | 2017年度(調査期間) | 内閣府 主要指標M(FTE調査分野別) |
| 研究活動時間割合(理学) | 49.3% | 2017年度(調査期間) | 内閣府 主要指標M(FTE調査分野別) |
結論
「大学教員は一日中研究している」という通念は、少なくとも時間配分の上では成り立たない。職務時間のうち研究に充てられているのは、平均でおよそ3割。2002年度の46.5%から2018年度の32.9%へ、研究時間割合は一貫して下がってきた。減った分は、教育・社会サービス・学内事務に置き換わっている。
これは怠けの結果ではない。むしろ逆で、研究以外の必要な仕事が増えた結果、締め切りのない研究が後回しにされている。わたしが博士課程で身につけるべきなのは、研究の進め方だけではないのかもしれない。削られていく時間の中で、それでも研究を続ける段取りの立て方——これもまた、当事者に課された技術なのだと感じている。
出典
- 文部科学省 科学技術・学術政策局 企画評価課『「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」-大学等教員の研究時間割合について-(2019.8.8)』 https://www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/yusikisha/20190808-1/siryo3.pdf (最終アクセス:2026-06-14)
- 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)『減少する大学教員の研究時間-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年と2008年の比較-[DISCUSSION PAPER No.80]』 https://www.nistep.go.jp/archives/3209 (最終アクセス:2026-06-14)
- 科学技術・学術政策研究所(NISTEP)『大学等教員の職務活動の変化-「大学等におけるフルタイム換算データに関する調査」による2002年、2008年、2013年調査の3時点比較-[調査資料-236]』 https://www.nistep.go.jp/archives/21000/ (最終アクセス:2026-06-14)
- 内閣府『主要指標M 大学等教員の職務に占める学内事務等の割合/大学等教員の職務活動時間割合の推移(分野別)』 https://www8.cao.go.jp/cstp/tyousakai/hyouka/haihu141/sanko1-11.pdf (最終アクセス:2026-06-14)
- 文部科学省『大学等におけるフルタイム換算データに関する調査-結果の概要』 https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa06/fulltime/kekka/1284881.htm (最終アクセス:2026-06-14)
年度注記:FTE調査は統計法に基づく一般統計として5年周期で実施され、本稿の主要数値は平成14(2002)・平成20(2008)・平成25(2013)・平成30(2018)年度調査による。研究活動時間割合(46.5%/39.1%/35.0%/32.9%)および年間総職務時間の内訳は文部科学省「大学等教員の研究時間割合について」(2019.8.8)に基づく。学部教員の47.5%→36.1%はNISTEP DISCUSSION PAPER No.80による値で、対象範囲と集計定義が上記とは異なるため参考値として併記した。分野別の数値(理学49.3%・人文社会科学32.7%等)は内閣府資料に掲載された「2017年度」表記の調査期間に対応する値である。