論文サーベイを「AIと」自動化したら、研究の時間が戻ってきた
博士課程で毎週何時間も溶けていた論文収集。AIに相談するのではなく、AIと一緒に仕組みを作ったら、サーベイが「読む時間」に変わった話。
研究を始めた頃、いちばん消耗していたのは「考えること」ではなく「集めること」でした。
毎週、関連しそうな論文を検索して、タイトルとアブストラクトを眺めて、関係あるものをメモして、PDFを落として、フォルダに整理して……。気づけば半日が溶けています。しかも、これを終えてもまだ一行も自分の考えは進んでいない。
この記事では、その雑務をAIと一緒に仕組み化して、サーベイを「収集作業」から「読んで考える時間」に取り戻した手順を、私の判断理由つきで共有します。
「AIに聞く」ではなく「AIと作る」
最初にやりがちなのは、ChatGPTに「この分野のおすすめ論文を教えて」と聞くことです。これは便利ですが、二つの問題があります。
- 出典が曖昧で、存在しない論文を出してくることがある(いわゆるハルシネーション)
- 毎回手で聞くので、結局作業が自動化されていない
私が変えたのは発想です。AIを「答えをくれる相手」ではなく、「繰り返す仕事を一緒に組み立てる相棒」として使う。具体的には、次のパイプラインを作りました。
作ったパイプラインの全体像
- 検索:論文APIから、キーワードと期間で候補をまとめて取得する
- 絞り込み:各論文のアブストラクトをAIに渡し、自分の研究テーマとの関連度を判定させる
- 要約:関連度の高いものだけ、3行サマリ+「自分の研究にどう効くか」をAIに書かせる
- 記録:結果を表形式で出力し、あとは人間が読む
ポイントは、3まではAIに任せ、4で人間が判断するという線引きです。何を読むに値するかの最終判断は、研究者である自分が握る。ここを手放すと研究の核がぶれます。
1. 検索:手で検索窓を叩くのをやめる
論文メタデータを取れるAPI(たとえば arXiv や Semantic Scholar など)を使えば、検索を毎回ブラウザでやる必要はなくなります。キーワードと取得件数を決めて、まとめて候補リストを作ります。
import requests
def search_arxiv(query, max_results=50):
url = "http://export.arxiv.org/api/query"
params = {
"search_query": f"all:{query}",
"start": 0,
"max_results": max_results,
"sortBy": "submittedDate",
"sortOrder": "descending",
}
res = requests.get(url, params=params)
return res.text # Atom 形式。実際は feedparser 等で整形する
ここはAIに「arXiv APIで最新50件を取るコードを書いて」と頼んで叩き台を作らせ、自分で動作確認しました。コードを書く雑務こそAIに任せる典型例です。
2. 絞り込み:関連度の一次判定をAIに任せる
候補が50件あっても、本当に読むべきは数件です。全部のアブストラクトを自分で読むのは、まさに溶ける時間。ここでAIに一次フィルタをさせます。
プロンプトの骨子はこうしました。
あなたは私の研究アシスタントです。私の研究テーマは「(テーマを具体的に)」です。 以下のアブストラクトについて、関連度を 0〜5 で採点し、理由を一文で述べてください。 確信が持てない場合は低めに採点してください。
「確信が持てなければ低めに」と書くのが地味に効きます。AIは放っておくと全部それっぽく関連づけてしまうので、保守的に倒す指示を入れておく。
3. 要約:読む前提の「3行+効き目」を作らせる
関連度が高かったものだけ、次の形式で要約させます。
- 何をした論文か(3行)
- 自分の研究にどう効くか(1行)
この「自分の研究にどう効くか」を一緒に出させるのがコツです。ただの要約だと他人事のままですが、自分の文脈に引きつけた一行があると、読むかどうかの判断が一瞬でできます。
4. 記録:最後は人間が読む
出力は表にして手元に残します。あとは関連度の高い順に、自分で本文を読む。ここからが研究です。集める作業に奪われていた半日が、丸ごと「読んで考える時間」に変わりました。
やってみて分かったこと
- 完全自動化は狙わない。判断を任せた瞬間に質が落ちる。雑務だけ渡す。
- AIの絞り込みは100点ではない。たまに良い論文を弾く。だから関連度の低いものも一度はタイトルだけ眺める。
- それでも、トータルの時間は体感で1/5以下になった。何より「集めるだけで一日が終わった」という徒労感が消えた。
おわりに
AIに「おすすめを教えて」と相談している限り、作業はなくなりません。雑務を仕組みごとAIに渡すと、初めて時間が戻ってきます。
戻ってきた時間で何をするか——それは仮説を立て、考え、創ること。研究者にしかできない、いちばん面白い部分です。
次は、集めた論文を読んだあとの「整理とメモ」をどう仕組み化したかを書く予定です。